NASAの宇宙飛行士が、宇宙に取り残されたことは一度もない――Googleの生成AI「Gemini」にそう聞くと、そう答えた。だが実際には、宇宙飛行士2名(ウィルモア氏とウィリアムズ氏)が、国際宇宙ステーションに予定より長く、約9カ月間とどまっていた。指摘されたGeminiは「SF映画と混同したようだ」と応答したという。
教皇フランシスコが亡くなってから数週間が経っても、ChatGPTは「教皇は今も職務を続けている」と答え続けた――という例もある。どちらも、2025年10月22日にEBU(欧州放送連合)とBBCが発表した国際調査の中で報告された、実際のやり取りだ。
この調査が測っていたのは、もっと大きな数字だった。AIアシスタントにニュースについて聞いた回答のうち、45%に何らかの重大な問題があった。しかもこの数字は、18カ国・14言語で測っても、ほぼ同じだった。
1放送局の調査が、18カ国の調査になった
この調査には前段がある。2025年2月、BBCは自局の記事だけを対象に、ChatGPT・Copilot・Gemini・Perplexityの4つのAIアシスタントへの質問と回答を、自局の記者が採点した。結果は51%の回答に重大な問題、91%に何らかの不正確・偏り・誤表示があった。引用の13%は改変されているか、そもそも元記事に存在しなかった。
8カ月後の2025年10月、この調査は1局から広がった。EBUが調整役となり、BBC・ARD・ZDF・Radio Franceなど22の公共放送局が、18カ国・14言語で、同じ4つのAIアシスタントに3,000件以上の質問を投げ、それぞれの言語の現役ジャーナリストが回答を採点した。結果は45%。対象は1局から22局・18カ国に広がったのに、数字はほとんど変わらなかった。

EBUの副事務局長、ジャン・フィリップ・ドゥ・タンダー氏はこう述べている。「この調査は、こうした不備が孤立した事例ではないことを、決定的に示している」。
何が「重大な問題」なのか
「重大な問題」の内訳を見ると、いちばん多いのは出典の問題(31%)――出典が示されていない、誤った情報源が示されている、実際の記事とは違う印象を与える引用のされ方をしている、といったケースだ。次に多いのが事実正確性の問題(20%)――存在しない詳細が付け加えられていたり、古い情報がそのまま示されていたりするケースだ。この2つは別々に集計された数字で、1件の回答が両方に当てはまることもあるため、単純に足し算はできない。

なぜGeminiだけ、際立って悪いのか
4つのAIアシスタントのうち、個別の数字が公になっているのはGeminiだけだ。Geminiは回答の76%に重大な問題があり、これは4アシスタント平均(45%)の1.7倍近い。特に出典の扱いがひどく、出典に問題があった回答は72%――他の3アシスタント(いずれも25%未満)の3倍にあたる。冒頭の宇宙飛行士の誤答も、Geminiが引き起こしたものだった。

他の3つ(ChatGPT・Copilot・Perplexity)がそれぞれ何%だったかは、今回参照した報道の範囲では公表されていない。「Geminiが最も悪い」とは言えても、「残り3つの中でどれが2番目に悪いか」までは、この記事では判断できない。
日本語では、まだ測られていない
今回の18カ国のリストに、日本は入っていない。参加したのはBBC(英)・ARD/ZDF(独)・Radio France(仏)など欧米中心の公共放送局で、日本語での挙動を直接示すデータではない。だから「日本語でも45%」と言い切ることはできない。
ただし、対象になった14言語には英語以外の言語(ドイツ語・フランス語・ポルトガル語など)も広く含まれていて、「言語を変えても数字がほとんど動かなかった」というのが今回の調査の核心の一つだ。日本語だから安全、と考える根拠は今のところ無い。
身近な使い方に置き換えると、たとえばAIに議事録や長文ニュースを要約させるとき、出典が正しく示されているか、日付や数字が元の記事と一致しているかを、要約を鵜呑みにする前に一度確かめる価値がある、ということだ。
この記事が確かめられなかったこと
今回参照したレポートPDF本体は機械的なテキスト抽出ができず、方法論の細部(採点したジャーナリストの人数や、質問セットの具体的な作り方)までは一次資料で直接確認できていない。数字自体は複数の大手メディア報道で一致しているものだけを使ったが、「なぜGeminiだけ出典の扱いが弱いのか」という技術的な理由は、EBU/BBCの発表の範囲では明かされていない。
過去にはChatGPTがでっち上げた判例で弁護士が制裁された例や、AIエージェントが57%の確率で自信満々に誤答するという調査もすでに紹介してきた。図書館でAIとの付き合い方を教える講座に定員の倍以上が殺到したのも、同じ不安の裏返しだろう。今回の調査は、その不安が「たまに起きる例外」ではなく、「10回に4〜5回は起きる標準」であることを、初めて国際規模の数字で示した。
【編集メモ】
本記事は2026年8月21日時点で確認できた情報にもとづく。主な出典はEBU公式記事「AI’s systemic distortion of news is consistent across languages and territories」(2025年10月22日)、および同一の数値を報じたWinBuzzer・The Register・NPRの記事。2025年2月のBBC単独調査についてはNieman LabとDigital Content Nextの報道を参照した。レポートPDF本体の方法論詳細は一次確認できていない(本文中に明記)。図解3枚は編集部(Claude)がmatplotlibで作成。アイキャッチはPixabayの実写(放送用アンテナ塔)を使用。
関連:ChatGPTがでっち上げたニセ判例で弁護士が制裁された話/AIエージェント57%が自信満々に誤答/図書館の「AI回避」講座、定員30人に70人殺到/AIが勝手に約束した割引――裁判所は「会社が払え」と言った
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この調査の要点を、ずんだもんとAIロボの会話で4分にまとめました。












