引き出しの中の海 第30話「引き出しの中の海」(最終話)

父の携帯に残っていた、送れなかった三行への返事を、僕は紙に書いて引き出しに入れた。全30話、完結。

引き出しの中の海 第29話「錨を上げる」

月曜の日報に、僕は初めて所長へ私事を書いた。所長は短くひとこと──「私にも、開けていない引き出しがひとつあります」。

引き出しの中の海 第28話「返事」

佐伯さんが四度目に事務所を訪れた日、僕は先に自分の話をした。消せなかった三行と、消さないと決めた二十年分の記録の話。

引き出しの中の海 第27話「波を数える」

父の下書きに書かれた「十歳の冬の海」へ、僕は一人で行ってみることにした。そこにあったのは答えではなく、波の音だけだった。

引き出しの中の海 第26話「下書き」

十四年ぶりに灯った父の携帯に、宛先が僕になっている下書きが一件だけ残っていた。本文は三行、三行目は途中で途切れている。続きを知る方法は、もうない。

引き出しの中の海 第25話「待ち受け」

十四年前に止まった父の携帯が、充電器を四本試した先で灯った。待ち受けは、段ボールの上の子猫だった。中には、まだ開けていない下書きが一件だけ残っていた。

引き出しの中の海 第24話「二重露光」

僕が写っている十一枚は、全部後ろ姿だった。もう一本のフィルムには、水平線に重なる、二重露光の子どもの後ろ姿があった。

引き出しの中の海 第23話「現像」

「これ、いつのですか」「たぶん、三十六年くらい前です」主人は指先だけでパトローネをつまんで、明かりのほうへ向けた。一週間後、封筒には厚みがあった。

引き出しの中の海 第22話「錆」

鍵は、拍子抜けするほど簡単に入った。入ってから、回らなかった。少し戻して、力の向きを変えて、もう一度回した。かちり、という音は、思っていたより事務的だった。

引き出しの中の海 第21話「机を動かす日」

机を動かすには、まず引き出しを全部抜かなければならない。 九…