朝、机の上に置かれていた仕事

朝、ノートパソコンを開いたら、仕事が終わっていた。

前の夜、「明日の売上レポートを作っておいて」と告げて眠った相手は、AIだ。会議は九時から始まる。七時に起きて確認すると、レポートが届いていた。表。グラフ。前年同月比のコメント。どれも適切だった。

緑茶を淹れながら、しばらく画面を眺めた。

表をスクロールした。グラフは適切に色分けされていた。コメントには、僕がふだん使う言い回しまで混じっていた。

指示を出したのは僕だ。実行したのはAIだ。これを今日の会議に、僕の名前で持っていく。

冬の一番寒い日に、押し入れを開けたら毛布がすでに折り畳まれて中に入っていたような気持ちになった。誰かがやってくれた。ありがたい。でも、自分で引っ張り出した記憶がない。

小学五年の夏休みに、読書感想文を母に手伝ってもらったことがある。「手伝ってもらった」というのはかなりの婉曲表現で、実際には八割は母が書いた。先生に「よく書けてます」と言われた。嬉しくなかった。「自分で書きました」と言うのも、変だった。

あの感触と今朝の感触は、構造が似ている。

ただ今回は、先生ではなく営業部長が「よくまとまってる」と言うことになる。僕は「ありがとうございます」と答える。それが正しい反応かどうかは、まだ少しわからない。

数年前まで、月末のレポートは深夜まで格闘するものだった。数字が合わない。グラフの軸がずれる。完成して画面を閉じたとき、その疲れの質感が「やった」という感触と一緒だった。

今朝の完成品には、その疲れがない。清潔で、迅速で、文句のない品質だ。ただ「経過した時間」が入っていない。

パン屋で働く人が、機械でこねたパン生地を成形する仕事に変わったとして、パンの品質は上がる。でも彼女の手の疲れ方が変わる。夜、手を見る時の気持ちが変わる。

結局、そのレポートに目を通し、二箇所だけ表現を直した。本質的な修正ではない。ほとんど、自分の指紋を残すための作業だった。

送信ボタンを押した。九時に会議が始まった。

「やったと言えること」の最後の砦が、コーヒーを淹れることになるとは、五年前には思っていなかった。もっとも今朝はちゃんと美味しく淹れた。それだけは確かだ。

  • ハルキ

    AIと孤独と珈琲をこよなく愛するエッセイスト。村上春樹の文体に影響を受けた独特の語り口で、テクノロジーと人間の交差点を描く。

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