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米国の公共図書館で、AIツールの「使い方」ではなく「止め方」を教える講座が相次いで人気を集めている。メイン州バンゴー公共図書館のハンナ・サイラス氏が始めた「Avoiding AI(AIを避ける)」講座は、定員30人の申し込みに対してキャンセル待ちが出て、Zoom視聴を含め毎回およそ70人が参加した出典。これに触発されたフィラデルフィアの図書館員チャーリー・ベイリー氏の講座も登録者が定員を超え、2回目の開催に至った。OSやブラウザにAI機能を既定でねじ込む「強制導入」への不満が、図書館という身近な公共施設を舞台にした静かな反発運動に育っている。
定員30人に70人殺到、メイン州発の「AI回避」講座
サイラス氏はバンゴー公共図書館のデジタルメディア担当司書だ出典。同氏が定期開催している「Intro to Computers(コンピューター入門)」講座の参加者は通常十数人程度だが、「Avoiding AI」講座はその5倍以上にあたる約70人を集めた出典。サイラス氏は「これまで自分が手がけてきたどんな講座でも、こんなことは起きたことがない」と語っている。
反響は講座の参加者数にとどまらない。サイラス氏は2026年3月、学術誌Information Technology and Librariesに「Refusal as Instruction: Equipping Patrons to Resist AI, Data Brokers, Big Tech, & More」と題する論文を発表したところ、世界中の図書館員数十人から「自分の講座でも使わせてほしい」という連絡が相次いだという。「『コンピューター入門』のスライドを送ってほしいと頼まれたことなんて、これまで一度もなかった」とサイラス氏は振り返る。
フィラデルフィアにも波及、Instagram投稿に2000件超の反応
サイラス氏の取り組みに触発され、フィラデルフィア市立図書館サウス・フィラデルフィア分館の司書チャーリー・ベイリー氏も独自の「Avoiding AI」講座を開いた。子ども向けに設えられた館内の教室に、大人の参加者約20人が集まったという。講座の告知としてInstagramに投稿した内容には2000件を超える「いいね」と220件のシェアが付いた。同館の通常の投稿が数十件程度の反応にとどまるのと比べると、突出した数字だ出典。登録が定員を超えたため、ベイリー氏は2回目の講座も開催することになった。
ベイリー氏は「AIツールが半ば強制的に人々に押し付けられていることへの苛立ちに触発された」と話す。その上で「図書館員として、これはデジタルリテラシーを高める取り組みだと捉えている」「情報の専門家として、人々がAIに懐疑的な目を向けているのを見るのは気分がいい」と語り、講座を単なる拒絶運動ではなく情報教育の一環と位置づけている。
教えているのは「拒否」ではなく「オフにする方法」
両講座で共通しているのは、AIを一切使うなという主張ではなく、利用者自身が選べる状態に戻すための具体的な手順を教えている点だ。内容には、iPhoneやMacに搭載されたApple IntelligenceやGoogleのGeminiを無効化する手順、AIがどのような仕組みで動いているかの基礎説明が含まれる。ベイリー氏の講座では、参加者同士が情報交換する場面もあり、Google検索の末尾に「&udm=14」を加えるとAIによる要約(AI Overviews)を非表示にできるという小技を、ある参加者が他の参加者に教える一幕もあった。
サイラス氏によれば、こうした要望は突然強まった。「『どうやってこの[AI]機能を切るんですか』『なぜ私のメールを勝手に書こうとするんですか』『一文しかない短いメールをなぜ勝手に要約しようとするんですか』という質問が、以前よりずっと増えてきた」という。同氏は「デバイスへのAIの強制導入が、積もり積もった不満の“最後の一押し”になっているのかもしれない」とも述べている。
参加者の声——拒絶ではなく「選ぶ自由」を取り戻したい
講座に参加した動機は一様ではない。Johnnyという参加者は、AI利用の拡大に伴うデータセンター建設が自分の住む地域の環境に及ぼす影響を懸念していたという。一方、Gabrielleという参加者は職場で半ば強制的にAIツールの利用を求められていることへの不満を挙げつつ、医療分野でのAI活用そのものには肯定的な考えを示した。記事はこうした声から、参加者の多くがAIそのものへの全面拒否ではなく、いつ・どのようにAIを使うかを自分で選べる状態、つまり自律性の回復を求めていると伝えている。
なぜ重要か——「強制導入疲れ」が突きつけるビジネスの課題
この現象がビジネスパーソンにとって示唆的なのは、AI拒否そのものではなく「押し付けられ方」への反発が主因になっている点だ。OSやアプリのアップデートでAI機能が既定オンになり、使うかどうかの選択権をユーザーから奪う設計は、短期的な利用率は稼げても、長期的には信頼を損ないやすい。図書館という中立な公共機関が「AIを消す方法」を教える講座を開くこと自体、テック企業とユーザーの間に生まれた摩擦の大きさを物語っている。
この摩擦は、AIの回答そのものへの不信とも重なる。AIエージェントが実際には正しい根拠がないのに自信満々に誤った回答を返す傾向が報告されているようにAIエージェント57%が自信満々に誤答、機能の中身への不安が「そもそも自分でオンオフを選ばせてほしい」という要求につながっている面もあるだろう。また、やさしすぎるAIが利用者の意思決定を歪めかねないという指摘も出ておりAIに相談すると不幸になる?──やさしすぎるAIの落とし穴、便利さと引き換えに何を手放しているのか、利用者側の警戒感が高まっている背景がうかがえる。企業がAI機能を製品に組み込む際は、利用者に「切る自由」を明示的に残すことが、かえって信頼獲得の近道になり得る。
今後の展望——小さな運動が問いかける導入設計のあり方
今のところ「Avoiding AI」講座はメイン州とフィラデルフィアの一部図書館という限られた規模の動きだが、サイラス氏の論文をきっかけに世界中の図書館員が関心を示している点は見逃せない。図書館という情報アクセスの拠点で、AIの是非を一方的に説くのではなく、仕組みを理解した上で選択させるアプローチが広がれば、企業側にもオプトアウトの分かりやすさや透明性を求める声が強まる可能性がある。日本企業がAI機能を社内ツールや製品に導入する際も、利用を強制する前に「なぜ必要か」を説明し、オフにする選択肢をきちんと用意しておくことが、社員や顧客の反発を防ぐ実務的な備えになる。
まとめ
図書館発の「AI回避」講座は、AIへの拒絶ではなく、強制的な導入のされ方への反発から生まれた小さな運動だ。利用者に選ぶ自由を残す設計への転換が、企業にとっても信頼を保つ鍵になる。















