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米ロボット新興企業Generalist AI(マサチューセッツ州ケンブリッジ)が、動画を1本見せるだけでロボットアームに新しい作業を覚えさせる技術を公開した。米科学誌WIREDの記者が現地取材で見たのは、ダストパンとブラシでブロックを掃き入れる作業からブラシを取り除いた瞬間、ロボットがダストパンだけを使って自力でブロックをはじき入れた場面だ。WIREDの取材記事によれば、このロボットは対象の作業に特化した専用トレーニングを一切受けていない。人間のように状況に応じて動作を組み替える「即興性」が、ロボット学習の新しい段階を示している。ただし同社が明かした平均成功率はまだ59%にとどまり、実用化にはなお距離がある。
ブラシを取られたロボットがダストパンで代用した
WIREDのシニア記者ウィル・ナイト氏がGeneralist AIのオフィスで見学したのは、ロボットアームがカップを積み重ねたり、ブロックをボウルに入れたりする単純な家事のような動作だった。特に驚かされたのは、ダストパンとブラシでブロックをボウルに掃き入れるよう指示されたロボットの反応だ。ブラシを取り除かれると、ロボットはダストパンをブラシのように使い、ブロックを弾いてボウルに入れる方法を自分で編み出した。
別の実演では、2本のアームを持つロボットが、財布のジッパーを開けて紙幣を取り出す様子を収めた動画クリップを見せられた。その直後、ロボットは形の違う別の財布で同じ動作を再現し、紙幣をつまみ出した。うまく紙幣をつかめなかった場面では、右のグリッパーから左のグリッパーに持ち替えて角度を変え、取り出しに成功したという。そばにいたエンジニアが「これまで一度もやったことがなかった」と驚いた様子を、ナイト記者は報告している。
Generalist AI創業者「GPT-3で人々が興奮したのと同じことだ」
Generalist AIの共同創業者でCEOのピート・フローレンス氏は、この技術を2020年にOpenAIが発表した大規模言語モデル「GPT-3」になぞらえる。「これはまさに、人々がGPT-3に本当に興奮したのと同じ種類のことだ。あのモデルに新しい作業をプロンプトで指示すれば、実際にやり遂げる見込みがあった」とフローレンス氏はWIREDに語った。特定のタスク向けに何千もの実例を学習させる従来のロボット訓練は、照明条件が変わるだけで動作が崩れるという弱点を抱えてきた。Generalist AIが目指すのは、そうした個別最適化に頼らず、物理世界の振る舞いそのものをロボットに理解させるアプローチだ。
同社のデモでは、子どもが初めて見た作業を工夫しながら真似る姿を思わせる場面も報告されている。研究者たちの想定を超える動きも見られ、あるロボットは目の前に置かれたバナナを使って物を掃き寄せる動作を選んだという。物体をどう扱えば目的を達成できるかという直感的な物理理解は、これまで機械が最も苦手としてきた領域であり、幼児がいかに効率よく世界を学ぶかという発達の仕組みが、AI研究者にとって重要な手がかりになりつつある。
元Google DeepMind・Boston Dynamicsの3人が創業
Generalist AIを率いるのは、フローレンス氏(CEO)、共同創業者兼CTOのアンドリュー・バリー氏、共同創業者兼チーフサイエンティストのアンディ・ゼン氏の3人だ。3人ともGoogle DeepMindとBoston Dynamicsで、業界屈指の先進的なハードウェアとロボット向けAIモデルの開発に携わってきた経歴を持つ。ロボットへの物理法則の教え込みという難題に、大手研究機関出身のチームが取り組んでいる構図は、Googleが自ら発表したロボット向けAIモデル「Gemini Robotics 2」とも重なる部分がある。ロボットに全身の動作を学習させる大手企業のアプローチと、スタートアップならではの物理直感重視のアプローチが、同じ「汎用ロボット」というゴールを別のルートから狙っている構図だ。
ロボット型グローブで人間の動きを大量収集
Generalist AIとロボット分野の一部のスタートアップは、汎用的なロボットモデルを人間の実演データで訓練する方向に大きく投資している。同社はロボットのグリッパー(挟んで物をつかむ機構)に似せた特殊なグローブにカメラを取り付け、人間の作業者がこれを装着してさまざまな家事や作業を実演することでデータを集めている。ナイト記者は、この特殊グローブが数百個も詰まったクレートが、メキシコなど各地の作業者に向けて出荷を待つ様子を目にしたという。同様に人間の動きから訓練データを集める試みは他社にも広がっており、脳波データを使って物理AIロボットを訓練する手法を進めるEncordのような取り組みも報告されている。
フローレンス氏らはトレーニングの具体的な手法の詳細は明かしていないものの、すでに大量の高品質なデータを蓄積していると説明する。他の多くの企業がオープンソースの言語モデルを土台にロボット向けAIを構築するのに対し、Generalist AIはAIモデルを完全にゼロから独自に構築している点も特徴だ。
専門家「デプロイに最も近い」 成功率はまだ59%
Generalist AIの取り組みを知るジョージア工科大学のロボット研究者ダンフェイ・シュー氏は、汎用ロボットモデルを追う企業の中でも同社は際立っていると評価する。「彼らはこれを極限まで押し進め、実行を本当にうまくやってのけている」とシュー氏は述べ、大量の高品質データを集めているだけでなく「優れたロボット研究者であり、本当に良い科学をやっている」と付け加えた。さらにシュー氏は、Generalist AIがこれまで公開したデモの内容から、実際の商用現場へのロボット投入を視野に入れていることがうかがえるとし、「彼らは実際に展開できる段階に最も近い存在だ」と語っている。
スタンフォード大学のロボット研究者カレン・リウ氏も、「Generalist AIのデータ収集手法は、特定のロボット機体に縛られない形で、物理的な相互作用データを大規模に集めるものだ」と評価し、「彼らの最も強い結果は、この賭けがうまくいきつつある可能性を示している」と述べた。もっとも当のGeneralist AI自身も、モデルの学習スキルはまだ十分に信頼できる水準ではないと認めている。ロボットが見せられた作業を完遂できる確率は平均で59%にとどまり、理想としては99%以上を目指すべきだとしている。あらゆる作業や環境にこの学習能力がどこまで一般化できるかも、現時点では不透明なままだ。
それでも、製造業のような現場でロボットが短期間に新しい作業を習得できる可能性は大きい。ある夜、エンジニアが何気なく2本アームのロボットの前で小さなカップを積み上げてみせたところ、ロボットは自らグリッパーでカップをつかみ、一緒に積み上げ始めた。ロボットがきれいに1つの山にカップを積み終えた瞬間、その様子を撮影していたエンジニアは誰に言うともなく歓声を上げたという。この一場面が、Generalist AIが目指す「教えなくても覚えるロボット」の可能性を象徴している。
まとめ
Generalist AIが示したのは、ロボットに何千もの実例を与えて特化訓練する時代から、動画1本と物理的な直感の理解だけで新しい作業に適応する時代への転換点だ。成功率59%という数字はまだ発展途上を示すが、専門家が「実用化に最も近い」と評価する背景には、大手研究機関出身の3人が積み上げてきたデータと物理理解へのこだわりがある。
参考・出典
- WIRED – I Saw the Future of AI in a Robot That Can Learn on the Spot
- aigeek.biz – Google DeepMind、全身動くロボットAI「Gemini Robotics 2」発表
- aigeek.biz – Encord、脳波データで物理AIロボット訓練へ
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