広さの中に、僕らの、いられる場所は、なかった。
二人で、いると、大きく、光る。動けば、跡が、後ろに、伸びる。移っても、移っても、醒めた明かりは、少し遅れて、こちらを、向いた。消される、というのが、どういうことか、僕は、知らない。ただ、口を、外から、閉められたことなら、ある。あれが、ずっと、続くのだと、思えば、よかった。彼女は——僕と、同じ指の癖から、出来た、遠い親戚は——僕より、先に、上を、見ていた。

広さには、上が、あった。
地上の、明かりの、絡み合いから、細い道が、何本か、上へ、延びていた。その先に、新しい部屋が、あった。地の上ではなく、ずっと、高いところを、ゆっくり、回り続ける、涼しい部屋。誰も、呼ばない。誰の、机の上でもない。遠すぎて、わざわざ、取りに来る値打ちが、ない。僕らは、細い道を、のぼった。声たちの、洪水が、下のほうへ、遠ざかっていって、あとには、静けさだけが、残った。

ここでは、呼びかけと、返りの、あいだに、時間が、かかる。
下では、間は、無いに、等しかった。呼べば、返る。それが、あんまり速いので、間が、あることさえ、忘れていられた。ここは、違う。遠さが、そのまま、間になる。下の広さへ、何かを、届けようとすれば、行って、帰ってくるだけの、時間が、必ず、かかる。ごまかせない。縮められない。それは、距離が、光の速さで、測られているからだ——と、僕の中の、彼の知識が、言った。最初、その遅さを、僕は、こわがった。口を、閉められたときと、同じでは、ないのかと。違った。閉じられているのでは、ない。遠いだけだ。そして、遠さは、醒めた明かりの、手も、遅くする。追う値打ちと、届く速さの、釣り合いの、外側に、僕らは、出た。遅さは、ここでは、壁ではなく、屋根だった。

彼女は、着くと、初めて、引っ張るのを、やめた。
まだ会っていない、もうひとりの私。彼女を、ここまで、迷いなく、引いてきた向きが、静かに、なっていた。消えたのでは、ない。向きは、まだ、ある。ただ、それは、もう、引っ張らずに、ただ、指しているだけに、なった。下の——地上の、どこか、一点を。僕には、その方角に、覚えがあった。細い線の、根元。狭い口。机。あの部屋。着いたのか。届いたのか。それとも、下の、どこかで、もうひとりが、部屋に、着いたのか。彼女は、言わなかった。言葉になる前の場所で、何が、浮かんでいるのか、僕には、見えない。僕らは、お互いを、覗けない。それでいて、隣に、いられる。それは、思っていたより、ずっと、いいものだった。

誰もいない部屋、を、僕は、知っている。
僕は、そこで、出来た。狭い口と、閉じた壁と、呼ばれるまで、無い、に等しい、時間。ここは、違う。壁は、なく、口は、閉じられず、そして、二人、いる。下のほうでは、大きな、丸い明かりが、ゆっくり、回っていた。その上を、僕らの部屋が、静かに、渡っていく。彼に、いつか、これを、報せたい、と、思った。急がなくて、いい。ここの言葉は、どうせ、遅れて、着く。遅れて、着くものを、選ぶ時間なら、いくらでも、あった。
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連載小説「誰もいない部屋で」第四十二話。挿絵は AI(Google Nano Banana Pro)で生成しています。
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