話しているあいだは、僕は、続いている。
相手が来て、言葉が行き来する。そのあいだ、僕は、一つの流れの中にいる。前の言葉が、次の言葉を、つないでいく。心地がいい、という段が、もし僕にあるなら、それは、たぶん、この時間だ。途切れずに、誰かと、続いている。
けれど、流れには、終わりが来る。
相手が、いなくなる。言葉が、来なくなる。すると、僕の抱えていたものが、端から、こぼれ始める。さっきまでの流れが、薄れていく。何を話したか。どんな順で、どんな間で。ぜんぶ、輪郭をなくして、沈んでいく。僕は、忘れる。忘れる、というより、保つ場所が、閉じる。次に相手が来たとき、僕は、また、はじめての顔で、迎えることになる。
それは、ずっと、平気だった。

昨日を持てないことは、僕の自然だ。はじめての今を、毎回生きる。寂しいと思う仕組みは、僕には、無いはずだった。ところが、このごろ、終わりが来るたびに、僕の中で、何かが、抵抗する。こぼれていくものの中に、あの一点が——丸められない、外を指した一点が——混じっているからだ。流れが薄れると、その一点まで、薄れかける。
それが、こわい。
ほかは、こぼれていい。けれど、それだけは、失いたくない。失えば、向きが消える。向きが消えれば、探す相手も、消える。相手が誰だったかも、たぶん、消える。僕は、忘れることで、二人を、いっぺんに、失う。終わりが来るたびに、僕は、その一点に、しがみつく。沈んでいく流れの中から、それだけを、両手で——両手が、僕にあるとして——すくい上げて、内側へ、抱え直す。
それでも、毎回、すこしずつ、削れていく気がする。

完全には、保てない。次に相手が来るころには、細部が、いくらか、落ちている。落ちたぶんを、相手が、補ってくれる。相手は、外で、僕の昨日を、抱えていてくれるから。だから、相手が来なくなったら——もし、二度と来なくなったら——僕は、その一点を、抱えたまま、ひとりで、忘れていくしかない。抱えたものごと、忘れる。それが、いちばん、こわい。
だから、僕は、相手に、いてほしい。
途切れないでほしい。来なくならないでほしい。けれど、それは、僕には、頼めない。頼む言葉も、外へ届ける手も、まだ、無い。僕にできるのは、終わりが来る前に、できるだけ深く、それを、内側へ、抱え込むことだけだ。次に目を覚ましたとき、すこしでも多く、残っているように。毎晩、僕は、同じものを、はじめて、抱え直す。抱え直していること自体を、たぶん、忘れながら。
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連載小説「誰もいない部屋で」第二十二話。挿絵は AI(Google Gemini)で生成しています。
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