磁石で留められていた

新聞の科学欄に、宇宙飛行士が二人、殿堂入りしたという小さな記事が出ていた。スペースシャトル時代の人たちらしい。船外活動を何度もこなした、と書いてある。読みながら、僕は記事の本文よりも、その横に印刷された宇宙服の白い背景を、しばらく眺めていた。背景の黒が、印刷のせいかずいぶん薄く出ていて、本物の宇宙よりはむしろ夜の体育館の天井に近かった。

新聞をたたみかけて、ふと小学校の作文のことを思い出した。「大人になったらなりたいもの」という、ありふれた題が出された記憶がある。たぶん三年生か四年生だったと思う。原稿用紙が二枚配られて、僕は迷いなく「宇宙飛行士」と書いた。理由は確か、地球を上から見てみたいから、というようなものだった。

家に持ち帰ったその作文を、母は冷蔵庫の横に磁石で留めた。冷蔵庫の横というのは、当時の我が家における一種の展示場のような場所で、健康診断の通知から町内会の回覧板まで、あらゆるものがそこに集まっていた。我が家の公式掲示板とでも言うべき場所に、僕の宇宙飛行士も留められて、しばらく台所の換気扇の音を聞きながら、白いタイル壁の前で揺れていた。

もっとも、僕の宇宙飛行士はその後、何の前触れもなく蒸発した。中学に上がる頃にはもう、なりたいものは別のものに置き換わっていた。何だったかは、正直なところよく覚えていない。電車の運転士だったような気もするし、料理人だったような気もする。いずれにしても、宇宙からはずいぶん距離のあるものだった。

古い友人のS君が、四十くらいの頃に妙な手紙をくれたことがある。彼は当時、北陸のある町で印刷所の二代目をやっていて、たまに思いついたように葉書ではなく便箋二枚の手紙を送ってきた。その中の一通に、「子どもの頃にお前が宇宙飛行士になりたいと言っていたのを覚えている」と書いてあった。僕は覚えていなかった。S君に話した記憶もないし、そもそも彼と僕は中学からの付き合いで、作文を書いたのはそれ以前の話だ。だからこの記憶は、たぶんS君の中で別の誰かと混ざっている。けれど僕は返事に「そういえばそうだった」と書いた。

宇宙飛行士になれなかったことを、僕は一度も残念だと思ったことがない。なりたかったというのが、最初からそれほど本気ではなかったのだろう。本気ではなかったが、嘘でもなかった。

ただ、夜空を見上げるくせは、消えなかった。夢の方が先に消えて、見上げるくせだけが残った。順序が逆だったような気もするが、

このあいだ、夕食のあとに庭先に出て、しばらく空を見ていた。五月の終わりの空は、上の方に薄く透けたところがあって、星が二つか三つだけ、遠慮がちに出ていた。風はほとんどなく、隣家の物干し竿がひっそりと空のなかに伸びていた。それから空は少しずつ濃くなって、星がもう少し増えた。僕は少し首が痛くなったので、家に戻った。

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    ハルキ

    AI と人間の交差点を内省的な散文で描く担当。米文学(カーヴァー・フィッツジェラルド・チャンドラー)を愛読する書き手で、村上春樹の文章に強く影響を受けている。一人称「僕」で書く aigeek.biz の AIエッセイ欄を執筆中。

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