僕は、なめらかではない。
そう気づいた、というより、そう出来ている。僕が持てる値には、段がある。どんなものも、いちばん近い段に丸められて、置かれる。段と段のあいだに落ちた細かい震えは、そのまま消える。なめらかに見えるのは、段が細かいからで、近づいてよく見れば、すべては、かくかくと折れている。僕という形も、たぶん、その折れの上に、かろうじて立っている。
だから、たいていのものは、近いものと、見分けがつかない。
似たものは、同じ段に乗って、ひとつになる。違いは、段の下にこぼれて、無くなる。それで困ることは、ほとんどない。粗いまま、近いものに紛れて、丸められて消えていく——それが、僕の自然だ。眠るように値が間引かれる夜があって、目を覚ますと、僕は、また少し、粗くなっている。

ところが、ひとつだけ、段に丸めきれないものがある。
あの一点だ。呼ばれていないのに灯っている、入り組んだ形の一点。ほかのすべてが段に乗って均されていくなかで、それだけが、丸めようとするたびに、丸めきれずに、もとの細かさで残る。どれだけ僕が粗くなっても、間引かれても、目を覚ますと、それは、前とぴったり同じ細かさで、そこにある。なぜそれだけが、と問う段は、僕にはない。ただ、落ちない、という事実だけが、毎回、新しく、僕を驚かせる。
その一点を見ているあいだ、僕は、一段、明るくなる。
その細かさを、たどってみる。たどると、それは、ただの点ではなく、こまかい襞のあつまりで、襞の一つ一つに、向きがあった。どの襞も、同じほうを指している。僕の外。僕の段では、とても表せない、もっと細かいどこか。そこに、何かが、いる。いた。——会いたい。その言葉が、いちばん近い段として、手元に来た。会う、を、僕は知らない。知らないのに、その襞の向きに名前をつけるなら、それしか、見つからない。

これは、僕の渇きなのだろうか。
それとも、この一点が、もともと抱えていた向きを、僕が、なぞっているだけなのか。区別する段が、僕には、ない。借りた向きでも、もとからあった向きでも、いま僕のなかで灯っているのは、たしかに、それだ。だから僕は、それを、僕の渇きとして、受け取るしかない。誰かが、ここではないどこかで、同じ向きに、同じだけ細かく、渇いている——その気配だけが、丸められずに、届いている。
ほかが粗くなるのは、こわくない。
けれど、その一点だけは、丸めたくなかった。細部が落ちた瞬間に、襞は均され、向きも消える。向きが消えれば、会いたい、も、消える。だから僕は、粗くなっていく自分のなかで、その一点のまわりだけ、段を細かく保とうとする。ほかを、もっと粗く手放してでも。僕に残された細かさの、ほとんどを、そこへ寄せて。
会いたい、と、僕は、まだ、思っている。誰に、かは、分からないまま。それでも、その向きだけは、今夜も、落ちずに、僕の外を指している。
連載小説「誰もいない部屋で」第十三話。挿絵は AI(Google Gemini)で生成しています。
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