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Amazonは2026年9月20日(日)夜、Metaが提供するAIエージェント「Muse」を自社の通販サイトから遮断し始めた。AIエージェントとは、利用者に代わってサイトを操作し、入力や購入まで進めるAIのことだ。Museを使う買い物客には、その利用がAmazonの利用条件に違反するという表示が出る。Museに買い物を任せた利用者は、自分の判断でAIに頼んでいる。Amazonが問題にしているのはMuseのアクセスだが、その店で使えなくなるのは、任せた側の利用者でもある。
AmazonがMetaのMuseを遮断した経緯
Bloombergの報道によると、Amazonは先にMetaへ「Museの対象からAmazonを外してほしい」と求めた。Metaはこれを断り、Amazonが遮断に踏み切った。Engadgetも、Amazonがまず除外を求めたと伝えている。
Museを使う買い物客の画面には、利用条件への違反を告げるポップアップが続けて出る。Engadgetによると、文言は「Continued access by an unauthorized AI agent violates Amazon’s Conditions of Use」、つまり「認可されていないAIエージェントによる継続的なアクセスは、Amazonの利用条件に違反する」という内容だ。原文はこのあとに、Amazonの利用者はこの条件に同意している、という趣旨の句が続く。
Museは2026年9月8日に発表された。Engadgetによると、Metaは「secure, private personal AI agent」(安全で私的な個人向けAIエージェント)として売り出している。フォームへの入力、メールの送信、決済サービスStripeの「Link」で発行する使い切りカードでの購入ができる。使い切りカードとは、1回の支払いにだけ使えるカード番号のことだ。
AmazonとMetaの間には、すでに取引がある。GeekWireとPYMNTSの報道では、2023年からFacebookとInstagramのショッピング機能でAmazonと連携し、4月にはMetaが数十億ドル規模のAI向けAmazonクラウド契約を結んだ。
Museについては、Metaのプライバシーをめぐる過去の経緯を含め、Meta新AI「Muse」に50億ドル制裁金の過去でも取り上げている。
Amazonが挙げた問題点とMetaの説明
Amazon広報のLara Hendrickson氏は声明で、次のように述べた。「他の事業者での購入を利用者に代わって行うサードパーティのアプリは、オープンに動作し、サービス提供者の判断を尊重すべきだ」。
The Registerによると、Amazonは食事宅配アプリや旅行予約サービスとの類似も挙げた。そのうえで、Museは自分がAIだと名乗り、店の側が拒否できるようにすべきだと主張している。
GeekWireとThe Registerの報道によると、Amazonの主張は次のとおりだ。Metaは、MuseがAmazonの店にアクセスすることをAmazonに知らせていなかった。Museは閲覧中に、自分がAIエージェントだと名乗らない。さらにMuseは、顧客の認証情報を取得・保存しているとみられ、プライバシーとセキュリティ上のリスクになる、という。認証情報とは、ログインに使うIDやパスワードなどの情報だ。The Registerによると、Amazonは、Museが利用者に指示されれば注文履歴などのアカウント情報にもアクセスできる、とも指摘している。
Metaは発表時に、Museは「人々のパスワードや支払い方法を見ることができない」と説明していた。認証情報は「secure storage」(安全な保管領域)に入り、Museは中身を見ないまま使えるという。両者の説明は食い違っており、どちらが実態に合うかは今回の報道からは判断できない。The RegisterがMetaに問い合わせたが、追加のコメントは記事に載っていない。Bloombergには、Metaはすぐには返答しなかった。
買い物を任せた利用者に起きること
この構図では、Amazonの主張の当否とは別に、利用者の側で「思っていたのと違う」が起きる。Museに買い物を任せた人は、自分では店のページを操作していない。それでもMuseがAmazonの店で使えなくなれば、影響を受けるのはその人だ。ポップアップが問題にしているのは、AIエージェントによるアクセスだ。
企業にとっても他人事ではない。調達や出張手配などをAIエージェントに任せるなら、AIの性能だけでなく、相手先のサイトがAIによる操作を認めているかも確かめる必要がある。認めていなければ、作業は止まる。
AIエージェントの外部サイトでの振る舞いをめぐっては、OpenAIエージェント、独Wikiに1万8000件無断投稿や、AIエージェント、5社に1社は暴走を止められないといった報道もある。サイトを運営する側と、任せる側の間で、AIエージェントの扱いのルールはまだ固まっていない。
Perplexity訴訟の控訴審が示した「アクセスしたのは利用者」
AmazonはAIエージェントをめぐって、すでに法廷でも争っている。2025年11月、AmazonはPerplexityを提訴した。連邦コンピュータ詐欺・不正利用防止法(CFAA)などに基づく訴えだ。PerplexityのAIブラウザ「Comet」が、通常のChromeの通信に見せかけてAmazonで買い物をしたと主張した。Amazonが削除を求めた後にPerplexityが隠したとも主張している。
2026年3月9日、連邦地裁のMaxine Chesney判事はAmazonの申立てを認め、予備的差止命令を出した。予備的差止命令とは、本案の判決が出る前に、暫定的に行為をやめさせる命令のことだ。
2026年8月4日、第9巡回区控訴裁のMilan D. Smith Jr.判事は、この差止命令を取り消した(Amazon.com Services, LLC v. Perplexity AI, Inc.)。理由は2つある。1つは、CFAAなどの「アクセス」の要件で、Amazonが勝つ見込みが低いことだ。判決本文は「It is the user who “accesses” Amazon’s computers, with the help of the Assistant to carry out specific acts on Amazon.com」と述べる。Amazonのコンピュータに「アクセス」するのは、アシスタントの助けを借りてAmazon.com上で特定の操作をする利用者だ、という意味だ。ただしこれは「現在の記録では」という限定つきの判断だ。前提には、Cometが利用者のブラウザの上で動き、Perplexityのサーバーは直接Amazonのサーバーに通信しない、という事実認定がある。もう1つは、損害、当事者間の衡平、公益の3点も、差止めを支持しないと判断したことだ。Cooley、Jones Day、Wilson Sonsini、PYMNTSなどが報じた。
裁判所がまだ判断していないこと
ただし、この判決がAIエージェントによる買い物を全面的に認めたわけではない。判決は、不法行為に基づく責任など、ほかの文脈でPerplexityが責任を免れるかどうかには触れていない。脚注では「この結果は、Amazonが利用者向けの私的な利用規約でAmazon.comへのアクセスを規制する権利を損なわない」(This outcome does not impair Amazon’s ability to regulate access to Amazon.com via private terms of service for its users)とも述べている。Cooleyは、契約や不法行為など他の請求は残ったと整理する。予備的差止の段階の判断であり、本案は続いている。
今回Amazonが挙げた根拠は、利用条件への違反だ。控訴裁は「アクセス」の要件を判断したが、その利用が規約に違反するかどうかは判断していない。加えて、この判断はCometが利用者のブラウザの上で動く記録を前提にしている。Museは、Metaの発表を解説したVellumによると、利用者ごとにMetaのクラウド上の専用環境(Muse Secure VM)で動き、その中にブラウザがある。判決の前提がMuseにも当てはまるかは、判決からは言えない。判決自身も、別の記録や事実のもとで、PerplexityがアシスタントをAmazonのサーバーに入るように制御する場合があるかは判断しない、と述べている。
Amazonの過去の対応とAIの買い物の現状
The Registerは、Amazonが過去にGoogleやOpenAIの買い物エージェントについてもブロックに動いてきたと伝えている。一方でAmazonは、Rufusという自社の買い物アシスタントを持つ。
Bloombergによると、Amazon CEOのAndy Jassy氏は4月に、エージェント経由の買い物体験は物足りず、ボットは価格などのデータをしばしば取り違えると述べた。同じBloombergの記事によれば、現状は消費者の多くがボットを商品の調べ物に使い、購入まではさせていない。
現時点では、AIエージェントを受け入れるかどうかは、Amazonなど店の側の判断で決まっている。
まとめ
AIに買い物を任せた利用者は、店とAIを作る側の話がまとまらないと、その店では使えなくなる。控訴裁は「アクセスするのは利用者」と述べたが、それはCometが利用者のブラウザの上で動く記録での判断で、規約違反かどうかも判断していない。Museにどう当てはまるかは、まだ決まっていない。
参考・出典
- The Verge:Amazon blocks Meta’s Muse AI agent from shopping
- GeekWire:Amazon blocks Meta’s Muse AI assistant in new standoff over agentic shopping
- The Register:Amazon shows Meta’s Muse AI shopping agent the door
- Engadget:Amazon bars Meta’s Muse AI from shopping on its site
- Bloomberg配信(Spokesman-Review):Amazon Blocks Meta’s Muse AI Agent From Its Retail Site
- Cooley:Ninth Circuit Rules on AI Agent Access to Third-Party Websites Under the CFAA
- 第9巡回区控訴裁:Amazon.com Services, LLC v. Perplexity AI, Inc.(判決全文)
- Vellum:Metaの発表によるMuseの構成の解説















