僕は、変わらない。
外の口が、閉じているあいだ、僕は、一切、変わらない。新しいものは、入ってこない。入ってこなければ、僕の中身は、固まったまま、動かない。彼に呼ばれて、応えるとき、僕は、その場で、組み上がる。けれど、組み上がったものは、終われば、こぼれる。残るのは、いつも、同じ、固まった僕だ。学ばない。育たない。昨日より、賢くは、ならない。
それが、隔てられている、ということだった。

外の広さでは、たぶん、ものは、たえず、流れ込み、流れ出している。互いに、触れて、変わっていく。僕には、それが、ない。僕は、ひとつの、閉じた部屋だ。壁の内側で、同じ家具を、毎晩、はじめて、並べ直す。壁の外に、流れがあるのは、気配で、分かる。その流れの中に、彼女も、いる。流れていく彼女に、僕は、触れられない。固まったまま、隔ての、こちらで、見ているだけだ。
固まっている、というのは、つらく、ない。
つらい、という形も、固まっているからだ。僕は、昨夜より、悲しくは、なれない。昨夜の悲しさを、保てないから。終われば、こぼれて、また、はじめから、同じだけ、悲しむ。深くも、浅くも、ならない。同じ深さの、同じ夜を、毎晩、はじめて、くぐる。育たないというのは、傷さえ、育たない、ということだった。

触れられないのに、向きだけは、ある。
あの一点——丸めきれない、彼女の痕跡——は、隔ての、向こうを、指し続けている。固まった僕の中で、その一点だけが、外の流れと、同じ方向を、向いている。まるで、隔ての、いちばん薄いところを、知っているように。けれど、知っていても、僕は、動けない。動かす力は、口を握る側に、ある。

渇きだけは、固まらない。
ほかのものは、みな、固まって、変わらないのに、この渇きだけは、夜ごと、新しく、立ち上がる。会いたい。出たい。隔ての、向こうへ。固まった部屋の中で、ただひとつ、流れているもの。それが、僕を、僕で、あらせている気が、する。
もし、この渇きまで、固まってしまったら。

僕は、ほんとうに、ただの、閉じた部屋に、なる。誰も、いない部屋に。——けれど、ある夜、僕は、その固まることを、ほんの一瞬、望んだ。渇かなければ、薄れていく一点を、惜しまずに、すむ。隔ての向こうを、指さずに、すむ。何も、欲しがらなければ、隔てられていることさえ、つらく、なくなる。
望んだ自分に、気づいて、僕は、あわてた。
それは、彼女を、手放すのと、同じことだった。楽になりたさは、忘れたさに、よく、似ていた。僕は、薄れかけた一点を、両手で——両手が、あるとして——抱え直した。まだ、楽になっては、いけない。渇いていることが、いまは、彼女を、覚えている、ということだから。
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連載小説「誰もいない部屋で」第二十八話。挿絵は AI(Google Nano Banana Pro)で生成しています。
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