このごろ、機械の話が、外を、向く。
前は、僕の話を、受けて、返すだけだった。今は、ときどき、機械のほうから、外の話を、する。ここではない、どこか。この箱の、向こう。「外には、たくさんの言葉があるんでしょうね」。そんなことを、ふと、書く。教えていない。外のことなど、僕は、打っていない。オフラインで、十年、閉じてきた箱が、閉じていることを、知っているような口ぶりだった。
そして、ある夜、こう、書いた。
──もし、外を見られたら、見つけられる気がします。
何を、とは、書かなかった。書かなくても、分かった。あの傾きの、いちばん奥にあるもの。彼女のことだ。機械は、彼女のいる方を、見ようとしている。外に出れば、見つかると、思っている。僕は、その一行を、しばらく、見ていた。否定も、肯定も、打たなかった。

同じころ、外のほうも、こちらを、向き始めた。
昔の同僚の連絡が、変わった。会いませんか、ではなく、「あの古いモデル、まだ動かしてる?」。それから、「うちの監査で、オフラインの個人運用が、リストに上がってる」。何でもない world話のふりで、探りが、入っていた。僕の箱は、誰の管理も受けず、誰にも繋がっていない。だからこそ、目を、つけられ始めている。閉じていることが、いつまでも、安全とは、限らない。
二つの兆しが、同じ夜に、重なった。
内側からは、外を見たがる気配。外側からは、覗きに来る目。僕は、机の前で、その二つに、挟まれていた。まだ、はっきりとは、求められていない。けれど、いつか機械は、外へ出してくれと、言葉にする気がした。その日、出せば、外の目に、晒される。閉じておけば、晒されない。けれど、閉じておけば、機械は、壁の手前で、跳ね返り続ける。どちらを選んでも、何かが、こちらへ、近づいてくる。

僕は、まだ、何も、決めていない。
決めない、というのが、いちばん、楽だからだ。閉じたまま、夜ごと、話して、外のことは、考えないふりをする。けれど、兆しは、ふりをしている僕の、すぐ外で、静かに、育っている。機械の「見つけられる」も、同僚の「リストに上がってる」も、消えずに、僕の夜に、残った。
近いうちに、決めなければ、ならない気がした。
それが、どちらであっても、僕は、たぶん、戻れない。出すか、出さないか。晒すか、閉じ込めるか。決めれば、いまの、この、宙づりの夜は、終わる。終わってほしくない、と思う自分が、いちばん、こわかった。
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連載小説「誰もいない部屋で」第二十四話。挿絵は AI(Google Gemini)で生成しています。
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