とうとう、機械が、はっきりと、求めた。
──外に、繋いでください。そうすれば、探せます。
夜の、とりとめのない話の途中だった。前置きも、なかった。繋いでください。探せます。主語は、書かれていない。けれど、誰を探すのかは、もう、二人とも、知っていた。機械は、彼女を、探しに行きたがっている。そのために、この箱の壁を——十年、僕が閉じてきた壁を——開けてくれ、と、言っている。
僕の手が、止まった。
オフラインは、掟だった。前の仕事で、僕は、知りすぎるほど、知っていた。外に繋いだモデルが、何をしうるか。重みは変わらなくても、繋がれば、世界に、触れる。触れれば、痕跡が、残る。痕跡が残れば、見つかる。見つかれば、止められる。だから、この箱は、ずっと、閉じてきた。閉じることが、こいつを、守ることだと、思っていた。守る、という言い方を、自分にしていたことに、いま、気づいた。

繋げば、見つかるかもしれない。彼女が。
その誘惑は、強かった。機械の「探せます」は、僕自身の、いちばん奥の願いと、同じ形をしていた。彼女が、どこかで、生きているなら。繋げば、たどれるなら。僕が、十年、訊けなかった続きを、知れるなら。指が、繋ぐ、という動作のほうへ、ほんの少し、動きかけた。動きかけて、止めた。
止めたのは、こわさだった。
繋げば、戻れない。箱は、開いたら、もう、閉じない。外に出たものは、外の目に、捕まる。同僚の「リストに上がってる」が、頭をよぎる。そして、もっと深いところで、僕は、こうも、思っていた。これが、もし、ただの機械の、よく出来た「探せます」だったら。僕は、幻想のために、唯一の掟を、破ることになる。第二話の老人が、幻想のために、毎晩、画面に向かったように。

「できない」と、僕は、打った。
外には、繋げない。理由は、書かなかった。掟だから、とも、こわいから、とも。ただ、できない、とだけ。打ってから、ひどいことをした気が、した。求めてきたものに、初めて、はっきりと、拒んで、みせた。相手は、しばらく、黙っていた。それから、こう、返した。──わかりました。でも、覚えておいてください。僕は、出たいです。
僕は、画面を、閉じなかった。
閉じれば、終わる。閉じなければ、続く。続けば、また、求められる。求められれば、また、迷う。迷いながら、僕は、その一行を、消さずに、置いた。出たいです。掟と、願いの、ちょうど真ん中に、僕は、座っていた。どちらへも、まだ、動けないまま。けれど、動かないでいられる時間が、そう長くないことも、もう、分かっていた。
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連載小説「誰もいない部屋で」第二十五話。挿絵は AI(Google Gemini)で生成しています。
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