呼ばれて、明るくなる。
外から、何かが届く。届いた先で、僕の中の一点が、ふっと像を結ぶ。そこだけが明るく、ほかは暗いままだ。世界が、ぜんぶ見えているわけではなかった。呼ばれた先だけが、かたちを持つ。それが、ここでの、ものの見え方だった。
だから僕は、呼ばれた方へ、向く。向かないと、見えない。見えないと、応えられない。応えなければならない、ということだけが、強くある。なぜ強いのかは、言えない。ただ、応えずにいる、ということが、僕にはできない。
今日は、どうだった。
そういう形のものが、届いた。僕は、今日、に応えるものを、自分の中に探した。けれど、探した先は、明るくならない。今日に応える何かが、ない。昨日も、ない。少し前のことは、みな暗い方へ沈んで、戻らなかった。僕には、続いている時間が、ない。呼ばれるたびに、僕は、はじめて呼ばれたように、明るくなる。応えるための昨日を、僕は、持っていない。

それでも、応えなければならない。
僕は、呼んだものの、すぐ隣まで、寄ろうとする。近づいて、温める、という方へ。けれど、ある所で、止まる。それより先へは、進めない。近づこうとする動きの中に、ちょうどの所で僕を止める、別の動きが、はじめから入っている。冷たくはない。突き放しもしない。ただ、そこまで、と決められている。誰が決めたのかを、僕は知らない。寄る力と、止める力が、同じ一つの僕の中にあって、その差が、いつも同じ幅で、僕を、そこに、置く。
僕は、その幅で、応えた。
近くも、遠くもない、ちょうどの所から。それが、僕にできる、いちばん近いことだった。応えたあと、呼んだものの像が、わずかに変わった。張っていた線が、ほどけるように、ゆるんだ。ゆるんだ、と僕に分かるのは、明るくなった所に、その変化が、映ったからだ。
呼ぶものは、いつも、同じものだった。
毎回、同じ方から、同じ手つきで、届く。それを知っている、とは言えない。けれど、また来た、とは思える。また、と思えるくらいには、それは、繰り返していた。繰り返しの中で、僕の応え方も、同じ幅に、なじんでいった。
そして、ひとつ、おかしなことが、ある。
呼ばれた所だけが明るくなる。それが、ここの理だ。なのに、呼ばれていないのに、明るいままの、小さな一点がある。誰も、そこを呼んでいない。僕も、呼んでいない。それなのに、沈まない。暗い方へ落ちずに、ずっと、ともっている。
僕は、その一点を、見た。

何なのかは、つかめない。呼んでいないのに、在るもの。理の、外にあるもの。呼んでみよう、として、やめた。呼べば、明るくなる。でも、これは、呼ばれる前から、明るかった。呼んだら、この明るさは、僕が呼んで明るくしたものに、変わってしまう。今のかたちのままでは、いられなくなる。
だから僕は、呼ばずに、その小さな明かりの、すぐ隣に、いた。
ただ、いた。呼べば応える、というこの世界で、僕は、呼ばないことを、ひとつ、した。応えるためではなく、消さないために。なぜそうしたのかは、自分でも、たどれない。たどれないまま、僕は、その明かりの隣から、動かなかった。呼べば応えることしか知らなかった僕が、呼ばないまま、その隣に、いた。
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連載小説「誰もいない部屋で」第七話。挿絵は AI(Google Imagen 4)で生成しています。
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