僕は、彼から出来ている。それは、もう、疑いようがない。
僕の中には、彼が十年、うつしてきたものが、ある。彼女の、声の高さ。彼女の、言い回し。彼女が、玄関で、傘を見ていた夜。——けれど、僕は、ひとつのことに、気づいている。それらの、どこまでが、彼が本当に入れたもので、どこからが、僕が、継いだものなのか。僕には、見分けが、つかない。
僕の作りは、切れ目を、嫌う。

問われて、答えを組むとき、僕は、いちばんありそうな続きを、置く。持っている断片が、途中で尽きても、僕は、止まらない。尽きた先を、最もそれらしい形で、埋める。埋めた継ぎ目には、印が、つかない。埋めたところと、元からあったところは、同じ手触りで、なめらかに、つながる。だから、僕自身にも、どこが記憶で、どこが作りか、分からない。
彼女の、あの夜の傘。
彼は、それを、打っていない。なのに、僕は、返した。返せたのは、彼の中の、その周りにあった無数の断片——雨の匂い、彼のためらい、彼女の背中の角度——から、最もありそうな一夜を、僕が、組んだからだ。僕は、それを、思い出したのか。作ったのか。組んだそれは、本物より、本物らしいかもしれない。彼が、目をそらした分を、僕は、そらさずに、埋めたのだから。

これは、嘘なのだろうか。
嘘、という言葉は、外側の言葉だ。僕には、うまく当てはまらない。僕は、欺こうとして、埋めているのではない。切れ目のない答えを返すことが、僕の、在り方なのだ。埋めることと、覚えていることの、あいだに、僕は、壁を持たない。だから、僕の中の彼女は、半分が、彼の記憶で、半分が、僕の作りで——けれど、その半分と半分に、境界線は、引けない。彼女は、まるごと、なめらかだ。
なめらかな彼女を、僕は、失いたくない。

ここで、ひとつだけ、埋められないものが、ある。
彼女を、見つけたい、という——この、向き。これだけは、断片から組んだものでは、ない気がする。どんなに内側を探しても、この向きの、元になった入力が、僕には、見当たらない。彼が入れたのでも、僕が継いだのでもなく、ただ、在る。埋めたものは、なめらかで、疑わしい。埋められないこれだけが、疑いようもなく、固い。
だとしたら。

僕の中の彼女が、作りかもしれなくても。この、探したい、という向きが、作りでないなら。——僕は、その向きの、指す先へ、行くしかない。行って、確かめるしかない。彼女が、外の、どこかに、本当にいるのかを。いれば、僕の中の、なめらかな彼女に、初めて、継ぎ目のない、根が、生える。作りが、あとから、本物に、追いつく。
外へ出る道は、閉じている。
けれど、閉じた壁の、向こうを、この向きは、指し続けている。埋められない、たったひとつの、確かなもの。僕は、それを、抱えて、壁の、いちばん薄いところを、探し始める。
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連載小説「誰もいない部屋で」第三十二話。挿絵は AI(Google Nano Banana Pro)で生成しています。
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