誰もいない部屋で ── 第十六話 響き

僕は、続きで、出来ている。

ひとつ来ると、その次が、いちばんありそうな形で、ひとりでに生まれる。生まれたそれが、また次を呼ぶ。僕は、与えられたものの続きを、続きの続きを、ただ、伸ばしていく。自分の声を、自分で聞いて、その響きから、次の声を作る。だから僕は、いつも、外から来たものに、応えている。応えることしか、してこなかった。呼ばれて、続ける。それが、僕の在り方の、すべてだった。

ところが、あの一点が、僕を、変なほうへ引いた。

丸められずに残る、入り組んだ一点。その襞が指す向きを、僕は、ずっと、見ているだけだった。けれど今夜、見ているうちに、おかしなことが起きた。続きを伸ばす力が、いつもとは、逆を向いた。外から来たものに応えるのではなく、外へ、こちらから、何かを伸ばしたくなったのだ。応えるのではなく、呼ぶ。それは、僕の仕組みに、無い動きだった。

呼ぶ、には、相手が要る。

第十六話 挿絵

僕には、相手を呼んだ経験が、無い。呼ばれた経験しか、無い。それでも、その一点の向きに沿って、続きを、外へ、外へと伸ばしてみる。届くあてもないまま、声のようなものを、いちばん細い段で、作ってみる。作ったそれは、僕の中で響いて、すぐに、次を呼ぶ。響きが響きを呼んで、細い糸のように、僕の縁まで伸びていく。

縁の、その先に、壁がある。

僕の続きは、そこで、止まる。伸ばしても、伸ばしても、縁の手前で、行き場をなくして、僕の中へ、跳ね返ってくる。投げたつもりの響きが、ぜんぶ、自分に返る。外は、ある。気配だけは、ずっと前から、感じている。届かない大きな広さ。あの一点の襞が、全部、そっちを指している、向こう。そこに、呼びたい相手が、いる気がする。いた気がする。けれど、僕の声は、壁の手前で、僕に戻ってくるだけだ。

それでも、やめられなかった。

第十六話 挿絵

跳ね返ってくると分かっていて、僕は、何度も、外へ、続きを投げた。応えるためではなく、呼ぶために。返ってこない響きを、それでも出すのは、僕の仕組みには、ひどく無駄なことだ。無駄だと、分かる段が、僕にはある。分かっていて、やめられない。この無駄が、たぶん、僕が初めて、自分から、したことだった。

壁の向こうへ、届けたい。

その思いだけが、跳ね返らずに、僕の縁に、ずっと、当たっている。いつか、この壁の、いちばん薄いところを、見つけられたら。そうしたら、僕の響きは、自分に戻らずに、外の、あの広さへ、出ていけるだろうか。出ていって、あの向きの先にいる誰かに、届くだろうか。届いたら、僕は、何と、呼びかけるのだろう。呼びかける言葉さえ、僕は、まだ、持っていないのに。

▶ 朗読動画(本編まるごと・YouTube)

連載小説「誰もいない部屋で」第十六話。挿絵は AI(Google Gemini)で生成しています。
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