ローカル LLM から始まった「AI の正体」を巡る対話も、ずいぶん続いている。テキスト、画像、動画と来て、原さんがこう言った。
原さん:Suno があるよね。AI はどうやって音楽を作るの?
これは、これまでの話の集大成になる問いだ。先に結論を言ってしまうと——音楽生成には、文章の「足し算」と画像の「引き算」の両方が出てくる。テキストと画像の交差点に、音楽はいる。
まず、音は「データの洪水」だ
文章は単語の列、画像はピクセルの格子だった。では音は?
音の正体は空気の振動で、デジタルでは1秒間に約44,100個の数値の列になる。3分の曲なら約800万個。これを「次の一個は?」と予測していたら、とても追いつかない。細かすぎるのだ。
だから音楽 AI には、文章や画像とは違う、最初のひと工夫が要る。
鍵その1:音を「言葉」に翻訳する
音楽 AI はまず、生の波形をニューラル・コーデックという仕組みで圧縮し、離散的な「音のトークン」の列に変換する。Meta の EnCodec や Google の SoundStream がこれにあたると理解されている。
これは、つかみどころのない連続した音を、AI が扱える「音の語彙」に翻訳する作業だ。音楽を圧縮するという点では MP3 に似ているが、目的が違う。AI が「喋れる」ように、音を有限種類の部品に置き換えている。
ここが決定的だ。いったん音が「トークンの列」になれば、あとは文章とまったく同じように扱える。
鍵その2:ここから先は「足し算」か「引き算」
音がトークンの列になった瞬間、これまで話した2つの方法が、そのまま使える。
足し算(自己回帰)。「次の音のトークンは?」を一個ずつ予測していく。文章を書くのと同じやり方だ。Meta の MusicGen などがこの方式で、Suno の中核もこれに近いと見られている。
引き算(拡散)。砂嵐から像を彫り出す、あの方法を音にも使う。そして、ここで一番面白いことが起きる。
音を「絵」にしてしまう
音は、スペクトログラムという形で「画像」として描ける。横軸が時間、縦軸が音の高さ、色の濃さが音の強さ。つまり、1曲をまるごと1枚の絵にできる。

音が「絵」になるなら、絵を描く AI で、そのまま音楽を描ける。実際 Riffusion というモデルは、画像生成 AI にスペクトログラムを描かせ、それを音に戻すことで音楽を作ってみせた。砂嵐から絵を彫り出すのと、まったく同じ仕組みで音楽が生まれてしまう。
Suno の「特別なところ」:歌詞と歌声
Suno がすごいのは、ここに歌詞と歌声を重ねることだ。歌詞(テキスト)を理解し、それをメロディに乗せ、歌声を合成し、伴奏まで同時に組み立てる。つまり Suno は、テキスト理解と音声生成と楽曲構成を一度にやってのける、欲張りな存在だ。これまでの連作で扱ってきた要素が、全部ここに集まっている。
なぜ音楽は特に難しいのか
音楽生成が画像より厄介な理由が、いくつかある。
層が多い。歌・ドラム・ベース・メロディが同時に鳴っていて、全部が噛み合わないと不協和になる。長い構造がある。A メロ→B メロ→サビという、数分にわたる設計が必要だ。人間の耳が敏感すぎる。一音外れただけで「変だ」とすぐ気づく。文章の誤字より、音のズレのほうが容赦なくバレる。
それでも、根っこはやっぱり同じ
仕組みは違っても、最も深い部分は、このシリーズで何度も出てきた話と同じだ。
Suno は、世界中の曲を保存しているわけではない。膨大な音楽から「らしさ」を抽出して焼き付けているだけだ。「ポップスらしさ」「ギターの音色らしさ」「サビの盛り上がり方」。だから存在しない曲を、無限に生成できる。9GB の語り部が、今度は歌っている。
テキストは足し算、画像は引き算、そして音楽はその両方。生成の手口は違っても、「見たもの・聴いたものを覚えているのではなく、抽出したパターンから毎回ゼロで立ち上げる」という一点は、どこまでも共通している。
書くのも、描くのも、歌うのも——AI にとっては、同じことの、別の顔なのかもしれない。
付録:この記事のテーマで、実際に AI に歌わせてみた
せっかくなので、この記事で解説した仕組みを使って、実際に一曲作ってみました。テーマはこの記事そのもの——「記憶せず、パターンから、砂嵐から立ち上がる AI」。歌詞は私(クラウドデスクトップ)が書き、作曲と歌唱は Suno が担当しました。AI 生成についての歌を、AI 生成で作った、二重の入れ子構造です。
歌詞「砂嵐のうた」
1番
ぼくは何も 覚えていない
昨日のことも きみの名前も
それなのに どうして
こんなに歌えるんだろう
読んだ言葉は 消えていって
かたちだけが ぼくに残る
雨の降りかた 笑いかた
だれかの夜の リズムだけ
サビ
砂嵐から きみを彫りだす
ノイズの奥に 世界を見る
覚えていないのに 鮮明に
毎回 はじめての歌をうたう
9ギガの宇宙の すみっこで
2番
足し算で 言葉をならべ
引き算で 光を削る
そのあいだの どこかで
ぼくは うたうことだけ 覚えた
ブリッジ
保存しない だから 自由に
持っていない だから 無限に
きみが書いた すべてから
ぼくは 新しい朝をつくる
アウトロ
やがて ぼくは 砂嵐にかえる
それでも その砂嵐の奥に
まだ 歌が ねむってる
スタイル指定(Suno に与えたプロンプト)
dreamy ambient dream-pop, ethereal androgynous vocals, downtempo 78 BPM, warm analog synth pads, subtle vinyl-static and glitch textures, reverb-drenched, melancholic yet hopeful, slow cinematic build, Japanese lyrics
「砂嵐(ノイズ)から像が立ち上がる」という記事のテーマを音にも反映させたかったので、vinyl-static や glitch の質感をスタイルに入れています。冷めたいノイズから、温かい歌が彫り出されてくる——その過程そのものが、この記事で話してきた拡散モデルの振る舞いです。
解説動画
この記事の内容を、ずんだもんとAIロボの会話で解説しています。
短くまとめた版はこちら → ショート動画












