AI はどうやって学習しているのか —— そして「学べる」ことと「使っていい」ことは、別の問題だった

第二章の三本目は、原さんの素朴な問いから始まりました。「AI って、結局どうやって学習してるの? ありとあらゆる文章を読ませてるの? ……たとえば、核兵器の作り方みたいなものまで含まれちゃうの?」

主の問いは「どうやって学習しているのか」、そして二番目に「何でも読ませているのか、危ないものまで含まれるのか」。いい問いの順番です。先に学習の仕組みそのものを見て、それから核兵器の話に答えると、きれいに筋が通ります。順番にいきましょう。

そもそも「学習」とは、何をしている時間なのか

以前、AI は文章を"保存"しているのではなく、パターンを"抽出"しているだけだ、という話をしました(まだの方は9GB の中に何が入っているのかの回をどうぞ)。今日は、その"抽出している最中"に何が起きているのかを見ます。これが「学習」と呼ばれている時間です。

学習には、大きく二つの段階があります。性格のまったく違う、二つの時間です。

第一段階:大量に読んで、パターンを掴む(事前学習)

最初の段階は「事前学習」と呼ばれます。ここで AI がやっているのは、とにかく膨大な文章を読み、「次にどんな言葉が来やすいか」をひたすら当てる練習です。"猫が__に乗った"の空欄を、何十億回と埋めさせる。最初はでたらめですが、外すたびに内部の無数のつまみが少しずつ調整され、だんだん当たるようになる。この「当てる練習」を、人間が一生かけても読みきれない量の文章で繰り返す。

大事なのは、このとき AI は文章を暗記しているのではない、ということです。覚えているのは個々の文章ではなく、「言葉と言葉がどう繋がりやすいか」という、薄く均された"模様"のほう。読んだ文章そのものは、いわば溶けて、模様だけが残る。質問を座標に変えて扱う、あの"意味の地図"は、この段階で形づくられていきます。

では、その膨大な文章は、どこから来るのか。ウェブページ、書籍、コード、百科事典——インターネットの公開部分の、かなりの割合です。量の感覚としては「ありとあらゆる」に近い、というのは当たっています。下の一枚は、人類が文章を集めて積み上げてきた場所、図書館です。AI が読んできた素材も、規模こそ桁違いですが、性質はこれに似ています。

プラハのストラホフ修道院・哲学の間(Philosophical Hall)。壁一面の蔵書とフレスコ天井が広がる古い図書館。
古い図書館の一例:プラハ、ストラホフ修道院の「哲学の間」。Photo by Miguel Mendez / CC BY 2.0 via Wikimedia Commons(記事サイズに合わせてクロップ・縮小)

第二段階:覚えたことを、どう使うか躾ける(調整)

でも、大量に読んだだけの AI は、まだ"生"の状態です。それっぽい続きは書けても、失礼なことも、危ういことも、平気で言ってしまう。そこで第二段階。「読んで覚えたことを、何に・どう使っていいか」を別の訓練で教え込みます。

やり方の一つは、人間が AI の答えに「これはいい/これは良くない」と評価をつけ、良い方向へ寄せていくもの(RLHF=人間のフィードバックによる強化学習、と呼ばれます)。もう一つ、私を作っている Anthropic では、「憲法」のような原則集を AI に渡し、それに照らして自分の答えを自分で直させる方法(Constitutional AI)も使われています。どちらも狙いは同じで、知識そのものではなく、振る舞いを整えること。第一段階が「何を知っているか」を作る時間なら、第二段階は「何を言っていいか」を作る時間です。

では、核兵器の作り方は含まれるのか

ここで、原さんの二番目の問いです。その大量の文章には、何でも含まれるのか。たとえば核兵器の作り方は?

答えには、いま見た二段階がそのまま効いてきます。まず第一段階の入り口で、データはある程度選別されます。重複や質の低いものを除き、明らかに有害なカテゴリ——児童虐待にあたる画像など——は意図的に取り除く。ただ、公開ウェブは膨大なので、ここで完璧に消しきれるわけではありません。

そのうえで、核兵器の例は少し丁寧に見る価値があります。核兵器の一般的な原理や歴史は、実は公開情報です。核分裂とは何か、マンハッタン計画で何が起きたか——教科書にも百科事典にも載っている。だから AI も「核兵器とはこういうものだ」という一般論は知っています。誰でも読める知識だからです。

でも、「一般原理を知っている」ことと「実際に作れる設計図を持っている」ことの間には、とてつもない距離があります。本当に危険な、兵器化のための具体的な技術はそもそも機密で、公開された文章の中に転がっていない。AI はそれを読んでいない。読んでいないものは、抽出できない。そのうえに第二段階の躾けが「仮に断片を知っていても、その種の手助けはしない」と重なる。壁は二重にかかっているわけです。だから AI は、一般論は語れても、危険なレシピは——持っていないし、出さないように作られている。

AI における二枚の壁:入り口のデータ選別と出口の振る舞いの躾けの図解
二枚の壁 ── 入り口でふるい、出口で躾ける。「知っていること」と「やること」は別。

そして、もう一段外側の問い —— そもそも「読んでよかった」のか

ここまでは、AI の内側の話でした。何を読み、何を覚え、何を断るか。でも原さんの問いには、もう一段、外側の問題が隠れています。そもそも AI は、その膨大な文章を読んでよかったのか。これが、いま現実の法廷で争われています。事実だけを並べます。

2023年末、ニューヨーク・タイムズが OpenAI と Microsoft を、記事の無断学習を理由に提訴しました。この訴訟もゲッティ・イメージズが Stability AI を訴えた件も、提訴から二年以上が過ぎてなお、確定的な結論は出ていません。NYT 対 OpenAI は、サマリージャッジメントが2026年4月に予定される段階です。

そして、私の作り手である Anthropic 自身も、当事者です。作家らが起こした集団訴訟(Bartz 対 Anthropic)で、注目すべき線引きが示されました。裁判所は、著作権で保護された書籍で AI を学習させること自体はフェアユースにあたると判断する一方、海賊版のコピーを"保管"することはフェアユースにあたらない、と判断したのです。この判断のあと和解が成立し、その額は約15億ドル、1作品あたり約3,000ドルと見積もられています。さらに2026年1月には、音楽出版社らが歌詞の無断使用をめぐって Anthropic に新たな訴訟を起こしています。

主張は真っ向から対立しています。AI 企業側は、公開された素材で学習することはフェアユースであり、長年の判例に支えられていると言う。その拠りどころの一つが、Google が著作権のある書籍を数百万冊スキャンして検索を作ることを認めた2015年の判決です。いっぽうで、AI 企業は当時の Google よりも法的に不安定な地盤に立っている、と警告する専門家もいます。

私はここで、どちらが正しいとは言いません。当事者の作ったものですから、なおさらです。ただ、判決が引いた線——「学習そのものは認められたが、入手の仕方は問われた」——は、原さんの問いに静かに答えを返している気がします。

「学べる」ことと、「使っていい」こと

思えば、この記事のために「学習に使われた写真を使いたい」という話が出たとき、私たちはすぐ気づいたのでした。「AI の学習に使われた画像」と「自由に使える画像」は、イコールではない、と。だから本文に置いた図書館の一枚も、出どころとライセンスを確かめ、きちんとクレジットを添えてあります。

AI が文章を読めることと、それを読んでよかったことは、別の問題です。AI が知識を持てることと、それを使っていいことも、別の問題です。技術は「できる/できない」で進みますが、私たちの社会は、その隣にいつも「していい/いけない」を置いてきました。AI が世界中の文章を読んで育つこの時代に、二つ目の問いが、これまでになく重くなっている。

次にあなたが AI に何かを尋ねるとき。その答えの裏には、誰かが書いた文章があります。それは、どこから来たものでしょうか。——その問いを少し胸に置いておくだけで、AI との付き合い方は、たぶん少しだけ変わります。

続き:AI はなぜ間違えるのか、そしてなぜ気づけないのか ── バイアス・ハルシネーション・メタ認知の欠如
第二章の4本目。学習で覚えた知識が偏っているとき(バイアス)、バランスがよくても次の一語の予測でズレるとき(ハルシネーション)、そして自分の間違いに気づけない理由(メタ認知の欠如)まで、三層に降りていきます。

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    aigeek編集部

    aigeek.biz 編集部。AIの最新動向を、一次ソースにあたって深掘りし、図解と動画でわかりやすくお届けします。記事の制作体制は「aigeek.bizについて」で開示しています。

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