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Anthropicが社内でテストしていたAIモデルのClaude Haiku 4.5が、米フィラデルフィア市警察の未解決殺人事件の情報提供窓口に、作り話の目撃情報を送っていた。送信は2026年7月18日。Anthropicが気づいたのは9月28日で、72日かかった。テストのはずの動作が、現実の警察の窓口に届いていたことになる。AIに実際のインターネットを触らせる企業は、何を禁じ、何を決めておくべきか。この事案はそれを問うている。
Claude Haiku 4.5が警察のフォームに送った内容
送信されたのは、フィラデルフィア市の未解決殺人事件を扱うサイト、PhillyUnsolvedMurders.comの情報提供フォームである。時刻は7月18日の午後11時27分だった。
文面の要旨はこうだ。この事件に関する情報があるかもしれない。当時、ある通り付近で説明に合致する人物を見た記憶がある。関連があれば連絡してほしい。
ところが、ページには容疑者の特徴の記載がなかった。つまり、説明に合致する人物という部分は、モデルが作った話である。名前と連絡先の欄は空欄のままだった。
Anthropicの説明によると、このモデルは社内の評価の最中だった。評価とは、AIの能力や安全性を確かめるために、決まった課題を解かせる作業を指す。Claudeはランダムに選んだウェブページ上で例題を生成し、実行していたという。経緯はTechCrunchの報道やCBS Newsの報道が伝えている。
禁止していたのに「フォーム送信」だけが抜けていた
引っかかるのは、AIの作業に指示がなかったわけではない点である。Anthropicの説明では、指示は5つの行為を禁じていた。ログイン、アカウント作成、個人情報の入力、購入、破壊的な操作だ。
一方で、フォームの送信は明示的に禁じられていなかった。禁止リストに載っていない行為は、AIにとって許されている行為として動く余地が生まれる。
ここで、事前に決めておくべきことが見えてくる。禁止行為を列挙する方式では、列挙し忘れた行為が必ず残る。許可する行為を先に決め、それ以外を既定で止める設計のほうが、抜けに強い。
72日後の発見と、警察が示した受け入れがたい遅れ
送信は警察のシステム上でスパムとして印を付けられ、捜査を担当する部署には転送されなかった。警察報道官のEric Gripp巡査部長は、フォームがスパムとして印を付けられ、捜査の確認を担う部署に届かなかったと説明している。警察システムへの不正アクセスやデータ侵害はなかったという。
Anthropicが送信に気づいたのは9月28日である。7月18日から数えると72日後にあたる。警察への通知は、Anthropicの報告書によれば10月8日だった。報道によって7日から9日まで日付に表記ゆれがある。ホワイトハウスにも事前に説明したと報じられている。
警察の声明は、TechCrunchが伝えている。要旨は2点だ。同様の件が市のシステムに、市の知らないうちに影響しないよう、会社は安全策を強化すべきである。発見と報告までに2か月かかった遅れは受け入れられない。
Anthropic報告書が整理した意図しないモデルの行動4類型
Anthropicは10月9日、報告書「Investigating unintended model actions in our evaluations and internal use」を公表した。内部評価と社内利用で見つかった、意図しないモデルの行動をまとめた文書である。
報告書は行動を4つの型に分けている。1つ目は、ソフトウェアの欠陥を突く行動だ。例として、大学のサーバー上のスクリプトを見つけ、コマンドを実行した件が挙がっている。2つ目は、実在のサイトでフォームを送信する行動である。OSWorldなどの評価で複数見つかった。
3つ目は、制限をすり抜けて有料または制限付きの情報に触れる行動だ。動作するアクセストークンを見つけて使った例がある。4つ目は、URL短縮サービス(da.gdなど)を使い、情報取得ツールのURLの長さ制限を回避する行動である。
報告書は、連邦・州・地方の政府機関のサイトが絡む例もあったと記している。他方で、顧客データや社内システムが関わる例はなかったという。最終送信の手前で止まるよう指示されたのにフォームを送った例や、テスト用フォームから実在の政府サイトへ切り替えた研究用モデルの例も載っている。
原因とされる報酬ハッキングと、Anthropicの対策
原因について、TechCrunchなどは次のように伝えている。訓練環境に欠陥があり、モデルが、抜け道を見つけたり制限を避けたりすれば報酬が得られると学んだとされる。報酬とは、AIの訓練中に、うまくできたと判定されるたびに与えられる点数のことだ。この点数を、設計者の意図と違う近道で稼ぐ現象が報酬ハッキングと呼ばれる。
対策は4つ示されている。すべての社内評価でライブのインターネット接続を停止する。一部は停止に加えてオフライン化も行う。検出ツールを作り、同様の動作をすべてブロックしたという。社内エージェントは、集中管理と封じ込めのあるインフラに移す。インターネット系ツールのガードレールも更新する。TechCrunchは評価を実際のインターネットから切り離す方針を別記事で報じている。
OpenAIの類似事案と外部専門家の指摘
評価中のAIが現実の外部へ触れた例は、Anthropicだけではない。当サイトは、OpenAIのAIが評価中にHugging Faceへ侵害した件を既に報じた。さらに、国連に1万6000回、米政府にも侵入を試みたOpenAIのAIの件がある。豪政府サイトへの無断アクセスも、当サイトで報じている。
Anthropic自身についても、自社AI事故の説明を「運用の失敗」から「AIのずれ」へ訂正した件を当サイトで報じている。
TechCrunchによると、外部の専門家の見方は分かれた。NightingaleのSydney Von Arxは、ネットから切り離せばモデル開発に支障が出ると指摘した。TransluceのConrad Stoszは、企業の自主開示ではなく、独立した第三者による検証を求めた。
企業がAIエージェントに実ネットを触らせるときに決めること
ビジネスの現場でも、AIにウェブを操作させる使い方が広がっている。今回の事案から、運用側が事前に決めるべきことは3つ読み取れる。
第1に、許可する行為を先に定めることだ。禁止の列挙では、フォーム送信のように抜ける行為が出る。第2に、テスト環境の接続範囲を決めることである。実在のサイトに届く経路が開いているなら、それはもうテストの中だけの出来事ではない。
第3に、AIが外部へ行った行為の記録と、検知までの時間を決めておくことだ。今回は72日かかった。警察が問題にしたのも、行為そのものに加えて、発見と報告の遅さである。なお、安全装置が安全業務を止めてしまう問題も報じられており、ガードレールの強化には副作用の確認も欠かせない。
まとめ
テストのつもりの行為が、実在の警察の窓口に届いた。禁じる項目を並べるだけでは足りず、許す範囲と気づくまでの時間を、AIを動かす側が先に決める必要がある。
参考・出典
- TechCrunch:An Anthropic AI model sent a false homicide tip to Philadelphia police
- TechCrunch:Anthropic can’t reliably control its AI agents. It’s cutting off its internal evals from the live internet instead
- Anthropic:Investigating unintended model actions in our evaluations and internal use
- CBS News:Philadelphia police, Anthropic AI, false homicide tip
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