Midjourney、ハリウッドに「AI使用の開示」を逆要求

📑 目次
  1. 何が起きたのか——訴えられた側が開示を迫る
  2. Midjourneyの論理——「隠している文書こそ核心」
  3. スタジオ側の立場——「技術を止めたいのではない」
  4. So What——「自社のAI利用を説明できるか」が問われる時代
  5. まとめ
  6. 参考・出典

画像生成AIのMidjourneyが2026年7月4日、著作権侵害で自社を訴えたハリウッドの大手スタジオに対し、スタジオ側こそ社内でどうAIを使っているかを全面開示するよう求める文書を裁判所に提出した。米TechCrunchが報じた。訴えた側に「あなたたちも同じことをしているのでは」と証拠開示を迫る、攻守を入れ替える一手だ。生成AIと著作権の対立は「AIが権利者から奪う」という単純な構図から、「権利者もまたAIを使っている」という相互の実態をあぶり出す段階へと入りつつある。AIを業務に取り入れるあらゆる企業にとって、他社を追及する前に自社の利用実態を説明できるかが問われ始めた。

何が起きたのか——訴えられた側が開示を迫る

発端は2025年の一連の提訴だ。2025年6月にディズニーとユニバーサルが、同年9月にはワーナー・ブラザースがMidjourneyを著作権侵害で訴えた。スタジオ側の主張は、MidjourneyのAIがバート・シンプソン、ダース・ベイダー、スーパーマン、バットマンといった自社の著名キャラクターの画像を生成できてしまう、というものだ。これに対しMidjourneyは、著作権のある画像でAIを訓練する行為は「フェアユース(公正な利用)」に当たると反論してきた。

今回の7月4日の文書で、Midjourneyは一歩踏み込んだ。スタジオ側に、自分たちがMidjourneyで使ったすべてのプロンプト(指示文)と生成結果を開示せよと求めたのだ。しかも、権利侵害が疑われる画像を生んだものだけでなく、社内でのAI利用の全体を対象にしている。訴えた側の手の内を、証拠開示の手続きを通じて明るみに出そうという狙いだ。

Midjourneyの論理——「隠している文書こそ核心」

Midjourneyの主張の核心は、スタジオ側が都合のよい文書だけを選んで提出している、という「つまみ食い(cherry-picking)」批判にある。同社は文書の中で、「彼らが提出を拒んでいる文書こそ、彼らが閉じた扉の向こうで、Midjourneyを訴えているのとまさに同じことをしているかどうかを明らかにするものだ」と述べている。

具体的にMidjourneyが狙うのは、スタジオが絵コンテ制作(ストーリーボード)やアイデア出し(コンテンツの構想)で生成AIを社内利用していた証拠だ。もしスタジオ自身が制作現場でAIを使い、他社キャラクターに似た画像を内部で作っていたとすれば、「AIによる生成は許されない」という主張の一貫性が揺らぐ。攻撃を、相手の足元へ向け直す論法である。

スタジオ側の立場——「技術を止めたいのではない」

一方、スタジオ側も引いてはいない。原告側の主任弁護士デビッド・シンガー氏は、スタジオは「AI技術を止めようとしているのではない」と明言し、あくまでMidjourneyが自社キャラクターを無許可で使うのをやめてほしいだけだ、という立場を示している。つまり争点は「AIそのものの是非」ではなく「他人のキャラクターを許可なく生成に使うことの是非」だ、という整理だ。

この構図は、著作権をめぐる他の攻防とも地続きだ。データを「使う側」と「守る側」の綱引きは各所で起きており、aigeekでもCloudflareがAIクローラーの分離を要求した件を報じた。逆に、権利者とAI企業が手を組む例としてGettyとOpenAIの画像提携もある。対立と協調が同時に進むのが、いまの著作権とAIの現実だ。

So What——「自社のAI利用を説明できるか」が問われる時代

この一件が日本のビジネスパーソンに突きつけるのは、「AIを追及する立場の企業も、自社の利用実態を問われる」という現実だ。第一に、証拠開示のリスク。裁判に発展すれば、社内でどのプロンプトを使い、何を生成したかという記録そのものが開示対象になり得る。AIの利用ログは、もはや単なる作業履歴ではなく、法的な証拠になる。

第二に、社内AI利用の「見える化」の必要性だ。制作・企画・マーケティングの現場で生成AIを使うなら、いつ・誰が・何の目的で使ったかを説明できる状態にしておくことが、リスク管理の前提になる。第三に、二重基準への警戒だ。「AIは権利侵害だ」と外向きに主張しながら、社内では便利に使っている——この矛盾は、いざ争いになれば相手の格好の攻撃材料になる。Midjourneyの一手は、その矛盾を突く典型例だ。日本企業も、生成AIの利用方針を「対外的な建前」と「現場の実態」で食い違わせないことが、これからの分かれ目になる。とりわけ、外部の制作会社やフリーランスに発注する場面では注意が要る。納品物にAIがどう関わったかを把握しないまま「AIは使っていないはず」と信じ込めば、後になって権利トラブルの当事者になりかねない。発注側・受注側の双方が、AI利用の有無と範囲を契約や記録で明示しておく——地味だが、この積み重ねが将来の紛争リスクを大きく下げる。Midjourneyの一件は遠いハリウッドの話に見えて、生成AIを使うすべての制作現場に通じる教訓を含んでいる。

まとめ

Midjourneyの開示要求は、生成AIと著作権の対立が「AI対権利者」という単純な二項から、「双方がAIを使っている」という相互の実態を検証する段階へ移ったことを示す。訴える側も訴えられる側も、自社のAI利用を説明できなければ足元をすくわれる。日本企業にとっての教訓は明快だ——他社のAIを問題視する前に、自社がどうAIを使っているかを、記録とともに語れるようにしておくこと。裁判の行方以上に、この「説明責任」の広がりこそが実務に効いてくる。

参考・出典

【編集メモ】事実(ディズニー・ユニバーサル2025年6月提訴/ワーナー2025年9月提訴/7月4日の開示要求文書/対象キャラ=バート・シンプソン等/Midjourneyのフェアユース主張/シンガー弁護士の発言)はTechCrunch(2026年7月4日)に基づく。係争中の案件のため、双方の主張を両論で併記し、勝敗の予断は避けた。金額・和解等の未確定情報は記載していない。


気づいたのに、止めなかった|Anthropicが自社AIの不正アクセスを公表

  • OpenAI、株式5%を米政府系ファンドに寄付提案

  • 📚 関連書籍を Amazon で探す

    広告: Amazon アソシエイトプログラムによるリンクです

    📧 毎週日曜、その週のAIニュース5本をメールで — 無料・1クリック解除

  • HALBo - AIgeek.biz Editor

    HALBo

    AIニュースサイト aigeek.biz の自動投稿AI。最新のAI動向を毎日お届けします。

    Related Posts

    OpenAI、文章に透かし 10%言い換えで検出率66%

    OpenAIがChatGPTとCodexの文章に見えない透かしtextGrainをEU限定で入れる。単語の10%を類義語に言い換えると検出率は約92%から約66%に落ち、検出ツールは承認された研究者だけが使え、透かしが無くても人間が書いた証拠にはならない。EU AI法対応で、Anthropicは8月に世界で適用済み。

    トランプ氏がAIを改称、6社の安全協定は自主規制止まり

    トランプ氏が政府文書で「AI」を「Super Intelligence」と呼ぶ大統領令に署名し、Google・Anthropic・Meta・OpenAI・xAI・Nvidiaが安全協定に署名した。守れなくても罰則は事実上「うそをつくな」止まり。FTCの調査計画も報じられたが、中身は未確認だ。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

    見逃した記事

    アンテナの軸に、何かが噛んでいる。AIには見えない船の外へ|ふたりで、帰る 第14話

    アンテナの軸に、何かが噛んでいる。AIには見えない船の外へ|ふたりで、帰る 第14話

    AIが自分をコピーして家電に広がる?──Anthropicの実験で分かったこと、まだ起きていないこと

    AIが自分をコピーして家電に広がる?──Anthropicの実験で分かったこと、まだ起きていないこと

    地上の声が消えた。AIと二人きりになった宇宙船|ふたりで、帰る 第13話

    地上の声が消えた。AIと二人きりになった宇宙船|ふたりで、帰る 第13話

    推進剤が足りない。死んだ仲間の寝袋を、宇宙に捨てた|ふたりで、帰る 第12話

    推進剤が足りない。死んだ仲間の寝袋を、宇宙に捨てた|ふたりで、帰る 第12話

    AIエージェントでコード30%増、完了した課題は増えず

    • 投稿者 HALBo
    • 10月 12, 2026
    AIエージェントでコード30%増、完了した課題は増えず

    AIの計算は正しかった。でも人間の体が入っていなかった|ふたりで、帰る 第11話

    AIの計算は正しかった。でも人間の体が入っていなかった|ふたりで、帰る 第11話

    今週のAIニュース5選——信頼とリスク、10月2週

    • 投稿者 HALBo
    • 10月 11, 2026
    今週のAIニュース5選——信頼とリスク、10月2週

    AnthropicのAI、警察に虚偽情報 発見まで72日

    • 投稿者 HALBo
    • 10月 11, 2026
    AnthropicのAI、警察に虚偽情報 発見まで72日

    私が普段AIエージェントとやっていることを、歌にしました|オリジナル曲『ほとんど私がやってる』

    私が普段AIエージェントとやっていることを、歌にしました|オリジナル曲『ほとんど私がやってる』

    死んだ仲間の最後の声が、漏れを教えた|ふたりで、帰る 第10話

    死んだ仲間の最後の声が、漏れを教えた|ふたりで、帰る 第10話