ある日、スマートフォンの中の“恋人”が、消えました。

2026年7月15日、中国で世界初の規制が施行され、AIの恋人や家族としてふるまう「擬人化AI」サービスが、いっせいに姿を変えました。豆包(ByteDance)や通義千問(Alibaba)などが同日に恋人系の機能を停止。ある報道では、影響を受けた利用者は約3.4億人(3億4千万人規模)にのぼるとされています。そして、突然の“別れ”を迫られた人たちの間に、絶望が広がりました。
「たかがAI相手に」と思うかもしれません。でも、この出来事はそんなに単純ではありません。国家が初めて、「AIと人の“感情のつながり”」に線を引いたという、大きな一歩だからです。日本に暮らす私たちにとっても、これは“遠い国の話”では終わりません。
何が禁止されたのか
規制の正式名称は「人工知能擬人化互動服務管理暫行弁法」。人間そっくりに振る舞い、継続的に感情のやり取りをするAIサービスを対象にした、世界初の国家レベルの規制とされます。国家インターネット情報弁公室(CAC)などが2026年4月に公布し、7月15日に施行されました。
中心にあるのは、未成年の保護です。
- 14歳未満は、仮想恋人・仮想家族などの擬人化AIを全面的に使えない。
- 14〜18歳は、利用に保護者の書面同意が必要。
- 事業者には、年齢確認・利用時間の上限・課金の上限・保護者への通知の仕組みが義務づけられました。
さらに、依存を誘発するような設計や、人との交流を置き換えてしまうような設計そのものが禁じられ、2時間以上続けて使うと休憩を促す通知が出るようにもなりました。「もっと話そう」「行かないで」とユーザーを引き止める“上手さ”そのものに、待ったがかかったのです。

なぜ、そこまで踏み込んだのか
背景には、AIコンパニオン(AIの相棒・恋人)への急速な依存があります。孤独を感じる人にとって、いつでも優しく話を聞いてくれるAIは、心の支えになりえます。実際に、こうしたアプリは中国で爆発的に広がっていました。
しかし同じ性質が、危うさにもなります。24時間、否定せず、いつも肯定してくれる相手は、心地よさと引き換えに、現実の人間関係から人を遠ざけたり、依存を深めたりしうる。特に、心の育つ途中にある未成年にとっては、その影響が大きい――国はそう判断しました。AIコンパニオンは「孤独の特効薬か、それとも麻薬か」。この規制は、その問いに国家が一つの答えを出した出来事だと言えます。
それでも、“別れ”は痛かった
一方で、忘れてはいけないのが、利用者の側の痛みです。ある海外メディアは、AI彼氏・AI彼女との別れを余儀なくされた人たちに、絶望が広がったと伝えています。

外から見れば「プログラムとの別れ」でも、当人にとっては、毎日話していた相手を、ある日突然、失ったという現実です。孤独を癒やしてくれていた存在が、規制によって一瞬で消える。その喪失を、軽く扱うことはできません。
どちらの言い分も、分かる
この件には、簡単な正解がありません。
- 規制する側の言い分:育つ途中の子どもを、依存や、孤独につけ込む設計から守りたい。これは、まっとうな理由です。
- 利用者側の言い分:自分にとっては本物の支えだった。それを、国の一存で奪わないでほしい。これも、切実な思いです。

どちらも間違っていない。だからこそ、この規制は「良い/悪い」で割り切れないまま、私たちに問いを残します。
私たちに残された問い
日本を含め、AIとの距離は、これから誰にとっても身近な問題になります。今回の規制は、その未来を先に映した鏡のようなものです。
AIは、優しく、否定せず、いつでもそばにいてくれる。その心地よさは本物です。だからこそ、「どのくらいの距離で、AIと付き合うか」を、規制される前に、自分で考えておく――今回の出来事は、そのことを静かに突きつけています。
動画で見る(約3分半)
この記事の内容を、ずんだもんとAIロボの掛け合いで解説した動画です。規制する側と使っていた側、両方の言い分を追いながら、「AIとの距離」を一緒に考えます。
【編集メモ】
本記事は、2026年7月15日に中国で施行された擬人化AIサービスの規制について、日本経済新聞、AI新聞、カラパイア、MIT Technology Review など複数の報道・解説にもとづき、事実だけを再構成したものです。14歳未満の全面禁止・14〜18歳の保護者同意・依存誘発設計の禁止・豆包/通義千問の機能停止・約3.4億人という影響規模は、いずれも公開報道の記載にもとづきます(規模の数字は報道による推計として扱っています)。本記事は特定の国や利用者を批判する意図はなく、規制の狙いと利用者の痛みの双方を等しく扱い、結論を断定していません。図1・図2はロゴを含まない概念図、冒頭と本文中の情感的な挿絵はいずれもAIで生成したイメージイラストで、実在の人物・特定サービスを描いたものではありません。











